大量のモノに囲まれた部屋で、届かないアドバイスと格闘する日々。ただ整えるだけでは終わらないこの仕事に、私は何を感じ、考えているのか—その一端を綴りました。
「どうにか収納してもらえませんか?」
そんなふうに頼まれて伺ったご夫婦のお宅。
初めて玄関を開けた瞬間に、「これは一筋縄ではいかないな…」と感じたのを今でも覚えています。
ご夫婦ともにお買い物が大好きで、セールの時期には衣類や日用品、靴、本、食料品など一気に大量購入されるそうです。
買ったままの状態、タグ付きのまま積まれた服、未開封のまま棚や床に散乱した食品や日用品たち。
どれも「いつか使うかもしれないから」「〇〇%OFFで安かったから」という理由で手元に置かれ、増え続けています。
「物を捨てたくない」というお気持ちははっきり伝わってきました。
ですから私は、“収納”に徹することに。
限られたスペースの中で、どうにかスッキリ見えるように工夫しました。
でも、本当の問題は“物の多さ”でも“収納の少なさ”でもないと、私は思っています。
ご夫婦にとって、「物を買うこと」は日常の一部であり、ストレスの発散でもあるのかもしれません。
実際にお話をしていると、買ったことで満足されているご様子が伝わってきます。
使うことよりも、「持っていること」に安心感を覚えていらっしゃるように感じました。
私自身も、好きな物・欲しかった物を手に入れたときのワクワクした気持ちはわかります。
だからこそ、その気持ちを否定することはできません。
でもその一方で、日常生活が物に圧迫されている状態を目の当たりにすると、「本当にこのままでいいのだろうか」とも思ってしまうのです。
私が提案できるのは、「一度見直してみませんか?」という声かけや、「この収納には何を優先して入れたいですか?」という問いかけ程度です。
しかし、そうしたアドバイスが届かないことも少なくありません。
「それより全部しまってほしいんです」と返ってくることもあります。
そう言われると、収納の工夫を凝らすしかありません。
突っ張り棒やボックスなどを駆使して、どうにか見える範囲だけでも整える。
でも、そのたびに「これは本当の解決じゃない」と思う自分がいます。
アドバイスが受け入れられないのは、私の伝え方が悪いのかもしれない。
説教くさくなっていないか?タイミングが悪かったのかもしれない…
もしかしたら、そもそも“片付けたい”という気持ち自体が私が思うほど強くないのかもしれない—。
そんなふうに考えながら、私は悩み続けています。
正直に言えば、「捨ててしまえば簡単なのに」と思ってしまう自分がいます。
でも、それができないからこそ、今この状態になっているのだということも、わかっています。
私は魔法使いではありません。
限られた時間と条件の中で、できることを精一杯やる。
でも、どんなに片付けの知識や技術があっても人の考えを無理に変えることはできない—それが現実です。
アドバイスをすることはできます。
「これは使っていますか?」「こうすると取り出しやすくなりますよ」とお伝えすることはできます。
でも、その言葉が届くかどうかは、相手のタイミングや気持ちに左右される。
どれだけ誠実に接しても、すぐに変化があるとは限らないのです。むしろ変化が見られない方が多いと感じます。
そんなとき、私は「片付けって、本当に心の深い部分に触れることなんだな」とあらためて思います。
ただ整えるだけでは終わらない。
心の中にある不安や執着、満たされなさと向き合うことにもなる。
だからこそ、難しい。
でも、だからこそ、やりがいのある仕事だとも思っています。
今日もまた、たくさんの物と向き合いながら、「この暮らしの中で、何が本当に必要なのか?」を一緒に探していく。
すぐに答えが出なくても、私の存在がそのきっかけのひとつになれたらいい。
そんな思いで、私は片付けの現場に立ち続けています。
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